『カレースタンド印度』のカレーを再現する話
まず印度の話からはじめよう
旧清水市の駅前に、小学校の同級生T君の御母堂がやっていた『カレースタンド印度』っていうカウンターだけの小さな店があって、おいらは小学校の頃からずっとこのお店に通ってました。ホテルスタイルのデミグラス系カレーをもっと刺激的にした感じの濃褐色のカレーで、具は1口サイズの牛肉がころんと1個入ってるだけ。ゆで卵やカツのトッピングも選べるけど、プレーンなAカレーを食べてる客が多かったかな。実はむちょ父も高校の頃から通ってたほど古い店で、清水〜静岡全域に熱狂的ファンがいることを後に知りました。後期には県外からの来客もちょこちょこあったらしい(『印度』の店構えやカレーの佇まいは、こちらとかこちらとかこちらとかこちらで紹介されてます。しかし『清水目玉焼』さんはええサイトや)。
上京してから神保町やらのいわゆる名店でもちょこちょこカレーを食べてきたつもりだけど、自分内カレーランキングではこの『印度』が未だに不動のトップを占めてます。たぶん自分の中ではここの味がカレーの標準原器なのだろうな(とはいえ、お土産を持ち帰って東京のカレー狂の知人に味見してもらった時もかなりの高評価をもらった記憶があるので、決して地元びいきやインプリンティングというだけでなく、全国区で通用する味なことは間違いないと思う)。ここ10年ほどは実家に里帰りするたびにひとりでor父と一緒に『印度』に行って、さらに別容器にお土産を作ってもらうのが習慣になってました。
ところが数年前にT君が事故で入院されてから、御母堂が看病のために店を畳まれちゃったんです。それ以後、旧清水市民はずっと『印度』のカレーのお預けを喰らっている状態。田舎帰るたびに、知り合いから『印度』開かないねぇ〜って言われます。
仕方がないから自分で作る
おいらも当初は早いご回復と営業再開をお祈りしていたのだけど(もちろん今もお祈りしてるんだけど)、そろそろ中毒症状が出てきて「もうこりゃ自分で『印度』風カレーを作れるようになるしかないわ」と、もう1年近くトライ&エラー中です。わずかな手がかりはこんなもん。
- カレー粉がS&BとステートサイドとC&Bのブレンドってことは知ってる
- チャツネがオリエンタルマースチャツネってことは知ってる
- 炒めタマネギは自分で作ってるって言ってた
- ブラウンルーで強い焙煎香と焦茶色を出してるはず
スープベースはどうやってたのかとか、生姜やにんにくの類は使ってたのかとか、基本骨格の部分にも謎が多いのだけど、最近はここのカレーを強く特徴づけている(はずの)ブラウンルーの作り方に焦点を絞って試行錯誤を繰り返してます。んで今回、何度目かのトライでようやく「それっぽい」形になってきたので、今までの研究成果をここにメモ。
『カレースタンド印度』風レシピ(暫定版)
- ブラウンルーは小麦粉をフライパンで空炒りするんじゃなく、小麦粉と油脂を練り合わせてからオーブンで中温で焼く
- 最初は160℃で40分、その後にやや高温の180℃で20分加熱することで小麦粉のデンプンを壊し、ボンディ系の欧風カレーみたいにモッタリしない、サラッとした仕上がりにする
- その後、ブラウンルーに小麦粉と同量のカレー粉を加えて低温で炒めて香り出しする
- 別鍋で牛肉の両面を焼き付けてから、炒めタマネギと水を加えて圧力鍋でホロッとさせ、塩味を調整し、薄目のブイヨンを作る
- ルーを加熱しているフライパンに熱いブイヨンを徐々に加えて適度に溶き伸ばす
- 全量を溶き伸ばしたら、ブイヨンから取り出しておいた牛肉も加えて軽く煮込む
- チャツネとウスターソースを少量加え、味を調えて完成
調理中の匂いや見た目からして「今日はなんか雰囲気出てる!」と思ってたんだけど、食べてみても「似てる度80%」ぐらいは達してる感じ。やりー! 加齢とともにめっきり味覚が大雑把になったウチの父なら「『印度』のカレーだよ」つって食べさせれば騙せるかもしれないレベルです。
次はこうする
ブラウンルーをバターと小麦粉で作ったからか、クッキーみたいなお菓子系の香りが前に出てくるところが微妙に『印度』と違ったんだけど、きょうブラウンルーの香気成分に関する研究論文で(PDF注意)、油脂の鹸化率・分子量の違いで香りの特徴が大きく変わり、植物油系だとクッキー香とは違う構成になるっつうことを勉強したので、次はサラダオイルかヘット(牛脂)を使ってみることにしよう。そうしよう。その他の改善課題は:
- シチュー・カレー用肉じゃなくて脂身のない赤身肉を使う
- Ingredientsを定量化してちゃんとしたレシピに落とし込む
これで次は85%までいけるんじゃないか、とか…。以上長い長いチラ裏メモ。
何度か作ってみてわかったのは、このカレーは旨味成分と香りの多くを薄力粉のメイラード反応から備給してるってことです。げに恐ろしきはメイラード反応の奥の深さよ。